システムやWebサービスを開発したとき、外注先へ払った開発費や自社の人件費を、そのまま当期の経費にしてよいのでしょうか。

ソフトウェアは形が見えないため、PCや機械より「経費」として処理しやすく感じるかもしれません。しかし税務上、取得・製作したソフトウェアは原則として減価償却資産(無形固定資産)です。

そのため、

  • 外注費として支払った
  • 社員の給与として支払った
  • PoC・試作として始めた
  • 将来販売するかもしれない
  • SaaSとして提供する予定

といった事情だけで、その期の損金になるとは限りません。

この記事では、小規模法人を主な対象として、法人税上、ソフトウェア関連支出を「当期の損金」とするのか「ソフトウェアの取得価額」として資産計上するのかという実務上の判断を中心に整理します。

この記事の要点

  • ソフトウェアは税務上、原則として減価償却資産
  • 購入代金だけでなく、設定費・外注開発費・自社製作の労務費等も取得価額に入ることがある
  • 「PoC」「研究開発」という名称だけで当期の損金にはならない
  • とくに自社利用ソフトウェアは、将来の収益獲得・費用削減につながるか不明な段階でも、税務上は取得価額に算入すべき場合がある
  • 販売用ソフトウェアでは、研究開発段階と製品として制作する段階を分けて考える
  • リリース後も、バグ修正・現状維持と、新機能追加・機能向上では税務上の扱いが異なる
  • 個人事業主でも基本的な考え方はかなり共通する

まず3つに分けると整理しやすい

税務上の処理を考えるときは、最初に次の3つを分けると分かりやすくなります。

ケース まず確認すること
ソフトウェアを購入・外注制作して自社で使う 取得価額に何を含めるか
自社でソフトウェア・SaaS等を開発する 自社製作ソフトウェアとして資産計上が必要か
顧客から受託して開発する 自社保有のソフトウェアではなく、受注案件の原価としてどう扱うか

特定の顧客から依頼を受け、その顧客へ納品するシステムを作っているのであれば、自社が長期間利用するソフトウェアを取得しているのとは性質が異なります。

受託開発の売上計上時期については、「売上はいつ計上する?請求日・納品日・検収日・入金日の違い【IT事業者向け】」で別に整理しています。

本記事では主に、自社で取得・製作して利用するソフトウェアや、自社サービス・販売用ソフトウェアの開発費を扱います。

購入・外注開発したソフトウェアは、代金だけでなく付随費用も見る

国税庁は、購入したソフトウェアの取得価額について、

購入代価 + 購入に要した費用 + 事業の用に供するために直接要した費用

という考え方を示しています。

例えば、

  • ソフトウェア本体の購入代金
  • 導入のために必要な設定作業
  • 自社仕様へ合わせるための付随的な修正
  • 利用開始のために直接必要な作業

などは、取得価額へ含めることがあります。

したがって、外部ベンダーへの請求書に「システム開発費」「外注費」と書いてあるからといって、その金額をそのまま当期の外注費として処理できるとは限りません。

何に対する支出なのかを見る必要があります。

自社開発では、人件費や外注費も取得価額に含まれ得る

自社でソフトウェアを製作した場合、法人税上の取得価額は、原則として、

製作に要した原材料費・労務費・経費 + 事業の用に供するために直接要した費用

です。

ここで特に注意したいのが、自社エンジニアの人件費や外注費です。

例えば、自社サービスの新規開発について、

  • 社員が半年間開発に従事した
  • 一部を外部エンジニアへ委託した
  • 開発専用のクラウド環境を利用した

という場合、その支出の全部または一部が、税務上のソフトウェア取得価額に含まれる可能性があります。

「給与だから人件費」「外注先へ払ったから外注費」と、日常の勘定科目だけで判断しないことが重要です。

個人への開発委託について、そもそも外注費なのか給与なのかという問題は別論点です。「外注費と給与はどう区分する?IT事業者が注意したい判定ポイント」で整理しています。

開発中から最低限の記録を残す

自社開発では、決算になってから「今年の開発費はいくらだったか」を思い出そうとしても、正確に分けるのは難しくなります。

少なくとも、

  • どのプロジェクトの作業か
  • 新規開発か保守か
  • 誰がどの程度開発に従事したか
  • 外注費がどの機能・工程に対応するか
  • いつ利用・提供を開始したか

を追えるようにしておくと、税務処理を判断しやすくなります。

厳密な大企業向け原価計算をそのまま導入する必要はありませんが、税務上も、合理的な方法で継続して原価を集計・配賦している場合には、その方法が認められる取扱いがあります。

また、製作等のために要した間接費・付随費用等の合計額が製作原価のおおむね3%以内の少額なものは、税務上、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる取扱いがあります。

PoC・パイロット開発なら経費にできるとは限らない

小規模事業者でも、

まず試作品を作ってみる
うまくいけば自社サービスにする
将来は販売するかもしれない

という形で開発を始めることがあります。

このような段階で最も注意したいのが、「PoC」「試作」「研究開発」という名称だけでは税務処理は決まらないことです。

税務上、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる費用として、一定の研究開発費が挙げられています。

ただし、自社利用ソフトウェアについては特に厳しく、研究開発費であっても、

そのソフトウェアを利用しても将来の収益獲得や費用削減につながらないことが明らかな場合

に限って、取得価額へ算入しないことができる取扱いです。

逆にいうと、

将来役に立つかもしれない
収益化できるかまだ分からない

という「不明」の状態だけでは、税務上ただちに研究開発費として損金処理できるとは限りません。

国税庁も、自社利用ソフトウェアについて、将来の収益獲得・費用削減につながることが明らかな場合だけでなく、不明な場合も取得価額へ算入するという考え方を示しています。

これは、会計上の処理と税務上の処理がずれやすい代表的な場面です。

失敗して不要になった開発費は別

一方、自社製作ソフトウェアについて、

  • 開発計画を中止した
  • 仕様変更により作った部分が不要になった
  • その成果物を今後利用しないことが明らかになった

など、いわゆる「仕損じ」で不要となったことが明らかな部分については、取得価額に算入しないことができる取扱いがあります。

したがって、試した結果うまくいかなかったものと、まだ収益化できるか不明だが開発を継続しているものは、同じ扱いとは限りません。

「当期の損金にならない」=永久に経費にならない、ではない

本来ソフトウェアの取得価額に入れるべき開発費を、その期に費用処理していた場合、税務上は当期に全額損金算入できないことがあります。

ただし、それは必ずしも永久に損金にならないという意味ではありません。資産として取得価額に含めたうえで、原則として減価償却によって各事業年度へ配分して損金算入することになります。

ここで、法人税基本通達7-5-1(7)には、ソフトウェアの取得価額に算入すべき金額を「研究開発費」として損金経理した場合、その金額を償却費として損金経理したものとして扱う取扱いがあります。この場合も、その期に全額が損金になるのではなく、税務上の償却限度額の範囲で損金算入されます。

一方、外注費その他の科目で費用処理した場合まで、同じ取扱いになると単純に一般化することはできません。実際の経理科目や処理内容に応じて確認が必要です。

したがって、「全額経費か、永久否認か」という二択ではなく、資産計上すべき支出なら、どの時期にどの方法で損金になるかを確認すると考える方が適切です。

将来販売するソフトウェアは「最初に製品化された製品マスター」の完成が一つの境目

「将来はこのソフトウェアを販売したい」と考えている場合も、開発費をすべて一律に当期の研究開発費としたり、反対に早い段階からすべて資産計上したりするわけではありません。

税務上、ソフトウェアの取得価額を考える際の「研究開発費」の範囲は、基本的には企業会計と同様に取り扱うと国税庁は説明しています。ただし、自社利用ソフトウェアの研究開発費については、後述のとおり税務独自の限定があります。

市場販売目的のソフトウェアでは、まず「最初に製品化された製品マスター」が完成するまでの制作活動が研究開発とされます。

「最初に製品化された製品マスター」の完成は、販売の意思が明らかにされていることに加え、製品性を判断できる程度のプロトタイプが完成しているか、プロトタイプを制作しない場合には販売に必要な重要な機能が完成し、重要な不具合も解消していることを目安に判断します。

基本的な流れは次のように整理できます。

  • 最初に製品化された製品マスターの完成まで:研究開発費
  • その完成後に行う製品マスターの改良・強化:原則としてソフトウェアの取得価額
  • 研究・開発の要素を含む著しい改良:研究開発費となる場合がある
  • バグ取りなど機能維持のための支出:発生時の費用となる方向

したがって、

技術検証をしている
製品として成立するか試している
販売を想定して開発している

という段階から、直ちに資産計上へ切り替えるわけではありません。

反対に、最初に製品化された製品マスターが完成した後も、通常の改良・強化をすべて「まだ研究中」として研究開発費にすることも適切ではありません。

小規模事業者では、この境目を大企業のような正式文書で管理していないことも多いでしょう。少なくとも、

  • いつ販売する意思を具体化したか
  • プロトタイプを作る場合、いつ製品性を判断できる程度まで完成したか
  • プロトタイプを作らない場合、いつ重要な機能が完成し、重要な不具合を解消したか
  • その後の作業が通常の改良・強化か、著しい改良か、機能維持か

を説明できる記録を残しておくと、税務処理を整理しやすくなります。

自社利用ソフトウェアだけは、研究開発費の扱いが特に厳しい

ここまでの「研究開発費は基本的に企業会計と同様」という整理には、重要な例外があります。

自社利用ソフトウェアについては、研究開発費であっても、そのソフトウェアを利用して将来の収益獲得または費用削減につながらないことが明らかな場合に限って、税務上の取得価額へ算入しないことができる取扱いです。

そのため、

収益化できるかまだ分からない
効果が出るかまだ不明

というだけでは、税務上の取得価額から外せない場合があります。

これは、自社サービスやSaaSの開発で特に注意したい点です。

「研究開発用ソフトウェア3年」は、開発中のソフトウェアという意味ではない

税務上、ソフトウェアの法定耐用年数は基本的に次のとおりです。

ソフトウェア 税務上の耐用年数
複写して販売するための原本 3年
研究開発用のもの 3年
その他 5年

ここで誤解しやすいのが「研究開発用のもの」です。

これは、研究開発のために使用するソフトウェアそのものを指します。

例えば、開発研究のために取得・製作して使う解析・シミュレーション等のソフトウェアが該当し得ます。

「いま開発しているソフトウェアだから3年」という意味ではありません。

自社の業務システムや、自社がサービス提供のために利用するソフトウェアは、通常は「その他」として5年を基本に検討します。

SaaS・Webサービスも、自社利用ソフトウェアの取扱いを確認する

SaaSやWebサービスでは、顧客へソフトウェアのコピーを販売せず、自社のサーバーやクラウド上でシステムを運用し、そのシステムを使って顧客へサービスを提供することがあります。

税法や国税庁の通達が「SaaS」という名称だけで独立した分類を設けているわけではありません。ただ、自社がサービス提供のためにソフトウェアを保有・利用する形であれば、実務上は自社利用ソフトウェアに関する取得価額の取扱いを確認することになります。

したがって、

SaaSだから毎年の開発費をすべて費用にできる

ということにはなりません。

とくに、PoCや研究開発費を取得価額から外せるかを考えるときは、前述した自社利用ソフトウェアの限定に注意が必要です。将来の収益獲得・費用削減につながるか不明というだけでは、取得価額から外せない場合があります。

また、リリース後については、新規サービス開発なのか、既存サービスの保守なのか、新機能追加なのかを分けて考えます。

リリース後は「現状維持」か「価値を増やす改良」かを見る

ソフトウェアはリリース後も継続的に修正します。

税務上の基本的な考え方は、次のように整理できます。

修正内容 税務上の方向性
バグ・障害を取り除く 修繕費
現在の機能・効用を維持する 修繕費
新しい機能を追加する 資本的支出
従来の機能を大きく向上させる 資本的支出
仕様を大幅に変え、実質的に新しいソフトウェアを作る 新たなソフトウェアの取得価額となる場合がある

例えば、法令改正へ対応するため既存機能を修正するだけなら、現状維持として修繕費となる場合があります。

一方、その対応をきっかけに新しい自動判定機能や電子配信機能を追加するのであれば、その部分は新機能追加として別に検討します。

「保守契約」「バージョンアップ」という契約名だけで判断せず、実際の作業内容を確認することが重要です。

なお、法人税には金額による簡便的な取扱いもあります。国税庁は、資本的支出に当たる修正でも、その費用が20万円未満である場合や、資本的支出か修繕費かが明らかでない金額について、60万円未満または修正対象ソフトウェアの前期末取得価額のおおむね10%以下である場合には、修繕費として取り扱って差し支えないとしています。

これは、修正内容そのものが修繕か資本的支出かを判定する基本ルールとは別の、実務上の簡便的な取扱いです。

40万円未満なら少額減価償却資産の特例も確認する

ソフトウェアも減価償却資産なので、一定の要件を満たす中小企業者等であれば、少額減価償却資産の特例の対象になり得ます。

2026年4月1日以後に取得等する資産については、一定の青色申告の中小企業者等であれば、取得価額40万円未満の減価償却資産について、年間300万円まで取得価額を損金算入できる特例があります。

ソフトウェア等の無形減価償却資産も対象です。

10万円・20万円・40万円の各制度の違いについては、「10万円・20万円・40万円の違い―PC・備品を購入したときの経費・一括償却・少額減価償却資産」で詳しく整理しています。

個人事業主でも基本的な考え方はかなり共通する

本記事は小規模法人を中心に説明していますが、ソフトウェアの取得価額・研究開発費・耐用年数といった基本的な考え方は、個人事業主でもかなり共通しています。

実際、所得税基本通達49-8の2・49-8の3にも、法人税基本通達とほぼ同じ形で、

  • 市場販売目的ソフトウェアの製品マスター
  • 研究開発費
  • 自己の業務に使用するソフトウェア
  • 製作原価のおおむね3%以内の少額な間接費等

についての取扱いが置かれています。

また、ソフトウェアの3年・5年という耐用年数は、所得税・法人税に共通する耐用年数省令によるものです。

少額資産についても、2026年4月1日以後は、一定の青色申告者であれば40万円未満の特例があります。

したがって、このテーマで法人と個人の結論が大きく逆転するわけではありません。

ただし、

  • 法人では「損金」、個人では「必要経費」として計算する
  • 減価償却の申告・経理上の手続が異なる
  • 少額資産特例の根拠条文や適用要件・申告方法が異なる
  • 個人では家事関連費や事業専従者給与など、法人にはない論点が生じる

といった違いがあります。

本記事では法人税の根拠を中心に説明し、個人事業主についても基本構造は同じと理解して差し支えない範囲にとどめます。

コラム:自社利用ソフトウェアは、会計と税務で結論がずれることがある

ここまで説明したのは、主に税務上の取扱いです。

ソフトウェア会計には、受注制作・市場販売目的・自社利用などの区分がありますが、税務が常に会計と全く別の考え方を採っているわけではありません。

特に注意したいのが自社利用ソフトウェアです。

企業会計では、その利用によって将来の収益獲得または費用削減が確実と認められる場合に資産計上し、確実でない場合や不明な場合には費用処理する考え方があります。

一方、法人税では、自社利用ソフトウェアの研究開発費を取得価額から外せるのは、将来の収益獲得または費用削減につながらないことが明らかな場合に限られます。

そのため、自社利用ソフトウェアでは、会計上は費用でも、税務上はソフトウェアの取得価額へ算入するという差が生じることがあります。

国税庁も、この点について企業会計上の判断と税務上の判断が必ずしも一致しないことを明示しています。

上場会社や会計監査を受ける会社などでは会計基準上の処理を別途詳しく検討する必要がありますが、本記事では小規模事業者の実務を念頭に、法人税上の処理を中心に説明しています。

よくある質問

開発費を「外注費」で仕訳していれば、そのまま損金になりますか?

いいえ。

自社で利用するソフトウェアの取得・製作に対応する支出なら、勘定科目が「外注費」でも税務上は取得価額へ含める場合があります。

仕訳科目ではなく、支出の実態を確認します。

PoCなら、その期に全額損金にできますか?

PoCという名称だけでは決まりません。

本当に研究開発段階の支出なのか、すでに自社利用・販売するソフトウェアの制作へ移っているのかを確認します。

特に自社利用ソフトウェアでは、将来の収益獲得・費用削減につながるかどうかが不明なだけでは、税務上の取得価額から外せない場合があります。

将来販売するかもしれないだけでも、製品マスターとして資産計上が必要ですか?

「将来売りたい」という漠然とした意思だけで決まるものではありません。

市場販売目的のソフトウェアでは、税務上の研究開発費も基本的に企業会計と同様に考え、最初に製品化された製品マスターの完成までの制作活動は研究開発とされます。その完成後の通常の改良・強化は取得価額へ算入する方向です。

したがって、販売の意思、製品としての完成度、開発段階を具体的に確認します。

自社サービスの開発費は5年で償却すればよいですか?

税務上、自社利用等の「その他」のソフトウェアは5年が基本です。

ただし、そもそもどこまでをソフトウェアの取得価額へ含めるか、いつ事業の用に供したかを先に確認する必要があります。

開発が失敗した場合も資産に残し続ける必要がありますか?

製作計画の変更等により、作った部分が不要となったことが明らかな場合、その部分の費用は取得価額に算入しないことができる取扱いがあります。

「まだ使うかもしれない」のか、「今後使わないことが明らか」なのかを区別しておくことが重要です。

まとめ

ソフトウェア開発費の税務では、「何という勘定科目で支払ったか」より、「何を取得・製作したのか」を見ることが重要です。

特に自社開発では、

  • 自社利用・自社サービス用のソフトウェアなのか
  • 本当に研究開発段階なのか
  • 将来販売する製品の制作へ進んでいるのか
  • 開発後の作業が保守なのか新機能追加なのか

を分けて考えます。

小規模事業者では、PoCからそのまま本番サービスへ発展したり、最初は社内ツールだったものを後から外部提供したりすることもあります。

だからこそ、決算時にまとめて判断するのではなく、開発の目的・段階・工数・外注内容・リリース時期を簡単でも記録しておくことが重要です。

開発費が大きい場合や、研究開発と製品制作の境目が曖昧な場合は、当期の損金として処理してから決算で直すより、開発途中で税務上の扱いを確認しておく方が安全です。

参考資料