法人化して最初に悩み、そして毎年悩み続けるのが「自分への給与(役員報酬)」の金額設定ではないでしょうか。

「税金と社会保険料が一番安くなる金額にしたい」
「いや、金融機関への対外的な信用があるから、ある程度高くしておきたい」

様々な思惑が交錯しますが、実は「目先のキャッシュアウト(税・社保)」だけを最小化しようとすると、思わぬ落とし穴にハマることがあります。

今回は、元SE(システムエンジニア)の税理士として開発した新ツール「役員報酬オプティマイザ」を公開するとともに、シミュレーション結果を読み解く上での「経営的な視点」について解説します。

役員報酬オプティマイザ

法人の利益状況に合わせて、手取りと資産(年金積立+内部留保)が最大化する役員報酬を分析します。

🏢 法人の設定

万円
万円
(月額換算: 約 50.0 万円)

👤 個人の設定

万円

📊 分析結果:資産最大化のスイートスポット

✨ あなたの会社の推奨役員報酬
年額 -- 万円
この金額設定のとき、手取り+内部留保+年金資産の合計が最大になります。
推奨レンジ: --万円 〜 --万円
項目 (年額換算) ① 現在
(社宅なし)
報酬設定 -
総資産増加額
(手取+留保+年金-家賃)
- -
個人手取り (A)
(天引き前)
-
家賃負担 (B)
(社宅なし=全額, あり=負担分)
-
実質手残り (A-B) -
法人内部留保 -
社保資産 (年金) -
📋 税金・社会保険料の詳細内訳を見る
※計算の前提条件
  • 消費税は考慮していません。
  • 所得税は「2025年改正(基礎控除等)」、住民税は「2026年基準」を適用しています。
  • 社会保険料は「協会けんぽ東京(令和7年度3月分〜)」、法人税等は「東京都大田区(中小法人)」の実効計算を用いています。
  • 厚生年金保険料の70%を「資産」、国民年金保険料の全額を「資産」として評価しています。
  • 総資産増加額: 公平な比較のため、「手取り」から「生活に必要な家賃(設定額)」を支払った後の残額で評価しています。
    (社宅なし:手取りから全額支払い / 社宅あり:手取りから本人負担分のみ天引き)
  • 社宅の計算: 小規模住宅等を想定し、保守的に「賃料の20%」を本人負担額として計算しています。
  • 法人の内部留保がマイナス(赤字)になる設定は、推奨対象から除外しています。

なぜ、役員報酬の決定はこれほど難しいのか?

シミュレーション結果はいかがでしたか?
「推奨レンジ」が想像よりも広かったり、今の設定金額とズレていたりしたかもしれません。

役員報酬の決定が難しいのは、以下の「3つのコストのトレードオフ(3すくみ)」が発生するからです。

  1. 役員報酬を上げると:
    個人の「所得税・住民税・社会保険料」が跳ね上がります。
  2. 役員報酬を下げると:
    経費が減るため、法人の利益が増え「法人税」が上がります。
  3. 社会保険料を下げすぎると:
    将来受け取る「厚生年金」の受給額が減ります。

このバランスを頭の中で計算するのは不可能です。
そこで本ツールでは、「個人と法人の資産合計(Total Wealth)」が最大になるポイントを、プログラムによる総当たり計算で算出しています。

【重要】「推奨レンジ」の罠について

このツールを使うと、「月額20万〜60万」のような広い「推奨レンジ」が表示されることがあります。
これは計算上「資産総額があまり変わらない範囲」を示していますが、「レンジの下限(低い報酬)」を安易に選ぶことは、一般的には推奨されません。

なぜなら、シミュレータは「計算上の最大化」は教えてくれますが、「資金の流動性」までは考慮してくれないからです。

1. 個人の生活費不足(役員貸付金)のリスク

計算上は「役員報酬を下げて、法人に現金を残す(内部留保)」ほうが、社会保険料の負担が減り、資産総額が増えるケースが多くあります。
しかし、報酬を下げすぎて個人の生活費が足りなくなれば、結局は会社からお金を借りる(引き出す)ことになります。

これが決算書に「役員貸付金」として残ると、以下のような大きなデメリットが生じます。

  • 銀行融資への悪影響: 会社のお金を私的に流用しているとみなされ、金融機関からの評価が下がる要因になります。
  • 利息の計上: 会社は役員から利息(受取利息)を受け取ったとして処理する必要があり、無駄な法人税が発生します。

2. 将来の「出口戦略」との兼ね合い

法人に現金を貯め込んでも、それはあくまで「法人の財産」です。将来、個人に移す際(退職金や配当)には、結局何らかの形で課税されます。

もちろん、退職所得控除を活用したり、配当控除を受けたりと、有利な移転方法は存在します。しかし、将来の税制改正リスクや、今使える現金の自由度を考慮すると、「適切な納税をしてでも、個人資産として確保しておく」ほうが経営の選択肢が広がるケースも少なくありません。

結論:
推奨レンジの中で迷ったら、「生活に十分なキャッシュが得られる、やや高めの設定」を選んでおくのが、多くのひとり社長にとって安全な選択と言えるでしょう。

「役員社宅」という強力なパラメータ調整

もし、あなたが賃貸物件にお住まいであれば、シミュレータの「🏠 役員社宅を導入する」にチェックを入れてみてください。これは、単に役員報酬の金額をいじる以上に、手残りを増やす効果的なチューニングになります。

  • 仕組み: 会社が物件を契約し、家賃の大部分(例えば8割など)を経費化する。その分だけ、額面の役員報酬を下げる。
  • 効果: 額面報酬が下がるので「社会保険料・所得税・住民税」は下がるが、個人の「実質的な手取り」は変わらない(あるいは増える)。

持ち家の方や、社宅を使わない場合

もちろん、持ち家の方など社宅制度を使わない場合でも、本ツールは有効です。

役員報酬を上げ下げすると、「法人税」と「個人の税・社会保険料」はシーソーのように変動します。
頭の中で計算するのが難しいこのバランスを、本ツールは一瞬で可視化します。
「会社と個人、トータルで一番お金が残るポイント(資産最大化ポイント)」がどこにあるのか、グラフの山を見て確認してみてください。

おわりに:シミュレータは「コンパス」、進む道を決めるのは「あなた」

計算ロジックは嘘をつきませんが、あなたの「ライフプラン」や「事業の将来像」までは計算できません。

  • キャッシュを会社に厚く残して、攻めの投資をしたいのか?
  • 金融機関など対外的な信用のために、個人の額面年収を高く確保したいのか?

それによって、選ぶべき金額は変わってきます。

⚠️ ご注意:変更のタイミングには「ルール」があります

税務には「定期同額給与」というルールがあり、役員報酬の変更は原則として「期首から3ヶ月以内」にしかできません。期中に勝手に変更すると、経費として認められないペナルティを受けることになります。

シミュレータで「大まかな当たり(最適解の範囲)」をつけたら、最終的な金額設定や、社宅規定の整備といった詳細設計については、ぜひ専門家である私にご相談ください。
IT業界の商習慣を理解した税理士として、コードを書くのと同じくらい緻密に、あなたの経営をサポートします。

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