個人事業主で起業して成長してきた。法人化した方が得でしょうか?
そもそも起業の時点で法人化した方が得なのでしょうか?
ここでは、シンプルに一人会社(役員1人だけ、従業員なし) かつ 扶養なし、の場合について、個人事業主と比較してみます。
ご参考になれば幸いです。
税額をシミュレーションするため、以下の前提を設けています。
30歳、独身、扶養親族(子など)なし
一人会社(役員1名、従業員なし)
個人の青色申告特別控除額は65万円
個人住民税の課税所得は所得税と同じ
法人の利益なし(所得は全て役員報酬へ回す)
役員報酬は毎月同額、役員賞与なし
個人の国民健康保険料は東京都品川区にて計算
法人の社会保険料は協会けんぽ(東京都)にて計算
個人住民税(均等割)、復興特別所得税は無視
個人事業税の税率は5%
法人住民税(均等割)は東京都7万円
法人にした場合の税理士報酬の追加なし
結論:税金+保険料の観点だけなら一人会社のメリットなし。でも…
先に結論を。
実は、個人事業主を法人化するメリットはありません、一人会社+扶養なしの場合。
でも、これは税金+社会保険料の面だけを見た場合のお話。
それ以外の面における法人メリットも検討したいところ。
具体例を見て頂くことで、所得が拡大するにつれ、個人も法人も負担が近しくなることを確認できます。
法人の場合には、税制の優遇がある退職金を設けられますし、社宅や民間保険料などのメリットを享受できます。
また、今回は一人会社を前提としていますが、法人にすれば家族に対する給与の自由度が増します。
扶養にすれば、家族本人分の給与は法人経費にした上、給与をもらった本人は給与所得控除、扶養している人は配偶者控除や扶養控除を受けられます。
つまり、税金+社会保険料の負担額は法人化する一つの判断基準ですが、法人メリットを十分享受できるかの判断も重要です。
法人のメリットは以下ブログをご参照頂けますと幸いです。
この記事では「法人の利益なし(所得は全て役員報酬へ回す)」という前提を設けています。
所得が多くなるにつれ、個人の税率が法人の税率より不利であることをご存知でしょう。
つまり、所得の一部は法人に留保させて、残りを役員報酬へ回すことが賢明かもしれません。
「今の」税金・社会保険料を減らしたい場合は。
でも、法人に留保させた利益を最後は個人に還元したい場合も多いでしょう。
還元する場合に多額の税金が発生しては意味がありませんね。
今だけでなく、将来までトータルで検討することをオススメします!
シミュレーション事例
税金(個人所得税、個人住民税、個人事業税、法人住民税)、保険料(国民健康保険料、国民年金保険料、健康保険料、厚生年金保険料)を試算します。
ただし、健康保険料と厚生年金保険料は合計を社会保険料と表現します。
所得とは収入のことではなく、経費をマイナスした金額であることに注意してください。
また、タイトル上の「所得xx円」の金額は青色申告特別控除65万円を控除する前のものです。
所得500万円:個人の方が優位、約32万円
所得が500万円のケース。
個人事業主の場合
まず、個人事業主の場合。
青色申告特別控除65万円を享受します。
また、所得に応じた国民健康保険料、定額である国民年金保険料を支払います。
所得控除は社会保険料控除以外では、基礎控除48万円のみを計上します。
そして、個人の税金として、所得税、住民税、事業税を支払います。
所得が500万円の場合、以下となります。単位は円です(以下、同じ)。
- 国民健康保険料:436,028
- 国民年金保険料:198,240
- 課税所得:3,235,000
- 所得税:226,000
- 住民税:323,500
- 事業税:105,000
- 計(税金+公的保険料):1,288,768
法人の場合
次に、法人の場合。
法人は、役員報酬、社会保険料(会社負担分)を支払います。
また、法人の税金として、住民税(均等割)7万円も負担します。
役員は、社会保険料(役員負担分)を支払います。
所得控除は、個人事業主の場合と同様、社会保険料控除と基礎控除。
そして、個人の税金として、所得税、住民税を支払います。
- 法人住民税(均等割):70,000
- 役員報酬:4,380,201
- 社会保険料(会社負担)=社会保険料(役員負担):619,799
- 給与所得:3,064,000
- 課税所得:1,964,000
- 所得税:98,900
- 住民税:196,400
- 計(税金+公的保険料):1,604,897
税金+公的保険料の負担について、個人事業主の方が316,129円の得となりました。
これをベースに、所得800万円の場合、所得1,200万円の場合と比較します。
所得800万円:個人の方が優位、約21万円
所得が800万円のケース。
個人事業主の場合
- 国民健康保険料:723,728
- 国民年金保険料:198,240
- 課税所得:5,948,000
- 所得税:762,100
- 住民税:594,800
- 事業税:255,000
- 計(税金+公的保険料):2,533,868
法人の場合
- 法人住民税(均等割):70,000
- 役員報酬:7,008,322
- 社会保険料(会社負担)=社会保険料(役員負担):991,678
- 給与所得:5,207,490
- 課税所得:3,735,000
- 所得税:319,500
- 住民税:373,500
- 計(税金+公的保険料):2,746,355
税金+公的保険料の負担について、個人事業主の方が212,487円の得となりました。
所得800万円のときは316,129円でしたので、個人事業主有利の額が小さくなりました。
所得1,200万円:個人の方が優位、約7万円
所得が1,200万円のケース。
個人事業主の場合
- 国民健康保険料:870,000
- 国民年金保険料:198,240
- 課税所得:9,801,000
- 所得税:1,698,330
- 住民税:980,100
- 事業税:455,000
- 計(税金+公的保険料):4,201,670
法人の場合
- 法人住民税(均等割):70,000
- 役員報酬:10,748,857
- 社会保険料(会社負担)=社会保険料(役員負担):1,251,143
- 給与所得:8,798,857
- 課税所得:7,067,000
- 所得税:989,410
- 住民税:706,700
- 計(税金+公的保険料):4,268,396
税金+公的保険料の負担について、個人事業主の方が66,726円の得となりました。
所得800万円のときは316,129円、所得1,200万円のときは212,487円でしたので、個人事業主有利の額が更に小さくなりました。
公的保険料の負担額
一人会社+扶養なしの場合、3パターンとも個人事業主の方が有利の結果となりました。
この最大の要因は、公的保険料。中でも、年金保険料です。
個人事業主の場合、所得500万円のときも、所得1,200万円のときも定額の198,240円。
対して、法人の場合、所得500万円のときは801,577円、所得1,200万円のときは1,427,400円にも上ります。
法人では年金保険料を約60万円~120万円も多く負担しているわけです。
これを抜いて考えると、法人の方が個人事業主よりも負担は小さいと言えます。
厚生年金保険のメリットは、老齢年金の割り増しだけではありません。障害年金、遺族年金も手厚くなります。
また、健康保険には、傷病手当金と出産手当金の制度もあります。
法人の保険料が高すぎる感は否めませんが、個人事業主との税金・保険料の負担額の差を踏まえると、法人にするメリットはあるかもしれません。
まとめ
一人会社+扶養なしのケースについて、税金・保険料の面で個人事業主と比較しました。
結果は、一見、法人不利と映りますが、その最大の要因は年金保険料でした。
法人の方が公的保険サービスは充実しているため、その分も考慮する必要があります。
また、法人ならではの他のメリットも検討しないといけません。
内容についてご相談したい場合には、お問い合わせフォームからお問い合わせください。
よろしくお願いいたします。
法人の税金として、法人住民税しか登場しないのは、法人の課税所得をゼロと仮定しているから。
だから、法人税も法人住民税(法人税割)も法人事業税も発生しません。
ただし、法人住民税(均等割)の7万円は発生します。