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内部留保。税率だけ見て内部留保するのは危険かも?

税金

内部留保。

各期の利益は内部留保として、決算書に利益剰余金として蓄積されます。

ところで、利益が大きい場合、個人の税率は法人より不利となります。

そのため、役員報酬を増やして個人の税金を増やすより、役員報酬を減らして内部留保しつつ法人の税金を増やすことが一般に推奨されます

でも、内部留保に回すことは本当に賢明でしょうか?

法人に貯まった内部留保を個人に還元した場合の損得まで検討されていますか?

今回の記事がご参考になれば幸いです。

ここでは、税金・社会保険料の負担の観点のみを扱っています。

内部留保することが望ましい業態であるか等は考慮していません

例えば、設備投資資金を金融機関に依存している場合、相当に内部留保することが望ましいでしょう。

しかし、この記事では貴社の状況的に内部留保すべきか否かは考慮していないこと、ご承知おきください。

結論:思考停止的に内部留保を積み増すのは危険

先に結論です。

思考停止的に内部留保を積み増すのは止めましょう

理由は、内部留保を個人に還元した場合の税金負担が大きいから

内部留保を個人に還元する手段としては配当を用います。

このとき、配当所得に係る税金がどのように計算されるか、ご存知でしょうか?

上場株式等の配当は約20%の定率です。

いくら配当が大きくても税率は高くならないため、「金持ち優遇」とも言われます。

しかし、自分の会社から配当を受けた場合、税率20%ではありません

配当が大きくなるにつれて、税率は高くなります。つまり、税金負担が大きくなるわけです。

各期の税金を減らせても、最後にドカンと税金を徴収されては元も子もありません。

今だけでなく将来まで踏まえることが大切です

思考停止的に内部留保に回すことはオススメしません。

以下では事例を紹介します。

いずれも以下の前提を設けています。

  • 中小法人(イメージは資本金1,000万円未満)
  • 本店は東京都
  • 普通法人(電気、ガス、保険業等ではない)
  • 株主・役員は共通の一人のみ、従業員なし
  • 社会保険料は法人・役員が14.15%ずつ負担(介護保険なし)
  • 所得控除は基礎控除と社会保険料のみ
  • 所得税の課税所得と住民税は同じ

この前提の場合、概ね事業税について標準税率・軽減税率適用法人の税率が適用されます。

事例1(役員報酬を減らして内部留保に回す)

法人の実効税率は21.37%(所得400万円以下)、23.17%(所得400~800万円)です。

所得330万円を超えると所得税率は20%(所得695万円まで)。住民税を合わせると30%となり、法人の税率を超過します

できるだけ法人の税率を超過しない(今の税金を減らす)ことが目的のため、役員報酬を640万円(給与所得は468万円。課税所得は329.4万円、約330万円)と設定します。

法人の儲けは、①役員報酬、②社会保険料、③税引前利益に配分できます

③税引前利益を300万円として、この分も事例2では①役員報酬に充てて比較してみましょう。

事例1に関する税金、社会保険料などを以下に記します。単位は円です、以下同じ。

  • 法人の儲け(役員報酬+社会保険料+税引前):10,305,600
  • 役員報酬:6,400,000
  • 社会保険料(法人負担):905,600
  • 税引前利益:3,000,000
  • 法人税等:641,100
  • 税引後利益(内部留保):2,358,900
  • 給与所得:4,680,000
  • 社会保険料(役員負担):905,600
  • 所得税:231,900
  • 住民税:329,400
  • 税金+保険料:3,013,600

事例2(役員報酬を増やして内部留保に回さない)

事例1と異なり、法人の儲けを内部留保に回さず、すべて役員報酬と社会保険料に充てます

  • 法人の儲け(役員報酬+社会保険料+税引前):10,305,600
  • 役員報酬:9,028,121
  • 社会保険料(法人負担):1,277,479
  • 税引前利益:0
  • 法人税等:0
  • 税引後利益(内部留保):0
  • 給与所得:7,078,121
  • 社会保険料(役員負担):1,277,479
  • 所得税:636,500
  • 住民税:532,000
  • 税金+保険料:3,723,458

事例1の税金+保険料は3,013,600円でしたので、事例2の方が各期の負担は709,858円だけ大きいです。

想定していた通り、事例1のように内部留保へ回すことで「今の」負担を減らすことはできました

内部留保を配当した場合

事例1と事例2を比較して、(当然ですが)事例1の負担が小さいことを確認できました。

でも、それは「今の」負担が小さいことに過ぎません。

出口、つまり、内部留保を個人に還元した場合も含めたトータルでの検討が必要です

ここでは、事例1を20年間継続し、最終年に内部留保を吐き出して、個人に還元したケースを考えます。

このとき、以下となります。

  • 法人の儲け(役員報酬+社会保険料+税引前):10,305,600
  • 役員報酬:6,400,000
  • 社会保険料(法人負担):905,600
  • 税引前利益:3,000,000
  • 法人税等:641,100
  • 税引後利益(内部留保):2,358,900
  • 給与所得:4,680,000
  • 配当所得:47,178,000
  • 社会保険料(役員負担):905,600
  • 所得税(配当控除後):15,246,200
  • 住民税(配当控除後):4,347,544
  • 税金+保険料:22,046,044

負担額を見て、どう思われたでしょうか?

事例1の方が毎年の負担は小さいです。でも、それは約70万円に過ぎません。

20年間を累積しても、約1,400万円。

事例1の場合、最終年に、それを遥かに上回る負担が待っています

しかも、社会保険料は少なく支払っていますので、保険サービスの恩恵も少なくなります。

思考停止的に内部留保することをオススメできない理由をわかって頂けたのではないでしょうか?

まとめ

税理士法人に勤務していても、税率だけの観点で内部留保を勧めるスタッフは多いです。

しかし、内部留保の場合、二重課税(法人税を課税された残りに、更に所得税を課税)ですし、ずっと疑問に感じていました。

今回の記事では、内部留保を貯め込み過ぎた場合の弊害を確認しました

ある程度は内部留保に回すことが健全と思われますが、行き過ぎには注意しましょう。

今回の記事が参考になれば幸いです。

内容についてご相談したい場合には、お問い合わせフォームからお問い合わせください。

よろしくお願いいたします。

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